モザイクの裏側で何かが死んでた

洗濯機はぐるぐる回る。

 

人の形をした僕が換気扇の前でタバコを吸っている。

タバコを吸い始めた理由など忘れてしまった。

なぜ、わざわざ肺を汚しながら煙を吐くのか、自分でもよく分からない。

実を言うと、何もかもよく分からない。

何かの形をした何かが何かの前で何かを吸っている。

ところで、洗濯機はぐるぐる回る。

 

渚では、人魚がオスガッパとスケベな上下運動を飽きる事なく繰り返す。

普段淡水で生活するカッパは、海水の塩辛さに耐えかね、やがて息絶える。

寿司職人もどきはそのカッパの皿を剥ぎ取り、それに寿司を乗せ、大衆が群がるベルトコンベアに流す。

よくある話さ。

天狗は、メスツチノコの裂け目に長い鼻を挿入する。

プライドが高く、口呼吸をする奴は馬鹿だと思っている天狗は鼻を塞がれて絶命する。

本当の寿司職人はその天狗の下駄を剥ぎ取り、それに寿司を乗せ、ブルジョアの機嫌を伺う。

よくある話さ。

ガリは柴田理恵の唇を薄くスライスしたものだし、ワサビはハルクの皮膚をヤスリでこすった時に出たカスだ。

そんな寿司を、自分が所属する文化のアイデンティティだと思ってる奴は頭がイカれてる。

そんな寿司を、オリエンタルだと言い張って、ありがたがる異文化の連中も頭がイカれてる。

個人そのものを帰属意識に誘拐されている奴はことごとく頭がイカれてる。

息がつまるほどに嫌悪する。

僕は肺で呼吸しているのかと疑いたくなるほどに。

そんな時、僕はいつも青くて広い海を思う。

そこに僕の帰る場所などないのに。

それでも、洗濯機はぐるぐる回る。

 

ところで、僕はいつも曖昧な言葉で、何もかもをはぐらかす。

人はいつも具体的な言葉で、僕を傷つける。

そして、僕も同様に、いつも具体的な言葉で、僕自身を傷つける。

じゃあさ、誰が僕の心を守るんだろう。

じゃあさ、いつ僕の言葉は人を救えるんだろう。

飽きるほどに明るく照らされた舞台に立つ二人。

僕は暗がりでそれを見ている。

僕は自分の太ももをきつくつねりながら、歯を食いしばってそれを見ている。

何も保証されていないこの道を選んだくせに、あの舞台に立っている人たちはこの道を選んだことを誰かに許されているように見えた。

その一方、暗がりでそれを眺む僕は生きていることすら許されていないように感じた。

人を救いたい、いやそれはあまり思ったことないけれど。

でも、僕は僕を救いたい。

僕を許したい。

僕自身の言葉で。

僕自身の頭で。

いつでも、洗濯機はぐるぐる回る。

 


見汐麻衣 - 溺れる魚